「 今度、粉骨の面々、見物仕るべき 」の旨、上意にて、観世太夫 に御能を仰せ付けらる。御能組、脇「弓八幡」御書立 13番なり。
	
信長、御書立 御覧じ、
「 未だ隣国の御望みも これある事に侯間、弓矢納まりたるところ御存分無き 」由に侯て、5番に縮められ、細川殿の御殿にて御座侯へき。
	
初献の御酌、
細川典厩 ( 細川藤賢 )
。ここにおいて信長へ、久我殿・
細川兵部大輔
・
和田伊賀守
3使を以て、再三 御使、これあり。
「 副将軍か官領職に准ぜらるべき 」の趣を仰せ出ださる。しかりといえども、
「 この時においては、御斟酌 」の旨、仰せ出だされ、御請けこれ無し。
希代の御存分の由、都鄙の上下、これに感じ申し侯。
	
さて、
 わき能 「高砂」: 観世左近太夫・今春大太夫・観世小次郎
  大鼓: 大蔵二介
  小鼓: 観世彦右衛門
  笛:  ちょうあい
  太鼓: 観世又三郎
	
二献の御酌、大館伊予守。この時、右の 3使にて、再往 御使これあり、信長 御前へ御祗侯。かたじけなくも 三献の上、
公儀
御酌にて御盃 下され、御鷹・御腹巻 御拝領。御面目次第、これに過ぐべからず。
	
 2番 「八島」  大鼓: 深谷長介
         小鼓: 幸五郎二郎
	
三献御酌、一色式部少輔
	
 3番 「定家」
 4番 「道成寺」
   信長の御鼓、御所望侯。しかりといえども、辞退申さる。
	
  太鼓: 大蔵二介
  小鼓: 観世右衛門
  笛:  伊藤宗十郎
	
 5番 「呉羽」
	
御能過ぎ侯て、一座の者 - 田楽かつら等まで - 信長より御引き出物 下さる。
	
その後、且つうは天下の御ため、且つうは往還の旅人 御燐愍の儀をおぼし召され、御分国中に数多これある諸関・諸役 上げさせられ、都鄙の貴賎、一同にかたじけなしと拝し奉り、満足仕り侯ひ訖んぬ。